広島地方裁判所 昭和41年(行ウ)8号 判決 1966年11月30日
原告 中村兆成
被告 広島西税務署長
訴訟代理人 小川英長 外三名
主文
本件訴はいずれも却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 <省略>
理由
訴の適否について判断する。
一、まず、被告広島西税務署長のした本件所得税更正加算税賦課決定処分の取り消を求める訴について。
この取消の訴は、右処分の通知書を受けた日の翌日から起算して一月以内に異議申立をしないときは、もはやこれを提起しえないものであること行政事件訴訟法第八条第一項但書、国税通則法第八七条第一項、第七六条第一項、第七九条第三項の規定上明らかである。(なお、原告は、異議申立の期間を定めた国税通則法第七六条第一項の規定は訓示規定にすぎないというが、同規定は、明文上明らかなとおり、異議申立の期間を限定した規定であつて、この期間経過後の異議申立は許さない趣旨のものである。)
被告広島西税務署長は昭和四〇年九月二日付で原告の昭和三七年分の所得税更正加算税賦課決定処分をしたこと、原告は右処分の通知書を受けて右被告に対し異議申立をしたところ、同被告は却下の決定をしたこと、そこで原告は被告広島国税局長に対して審査請求をしたところ、同被告は却下の裁決をしたことは当事者間に争いがない。
広島市内では普通郵便でも発送の翌日もしくは少なくとも翌々日には配達されていることは顕著であり、<証拠省略>によれば、被告広島西税務署長は、昭和四〇年九月二日、前記処分の通知書を原告宛に発送したことが認められるから、右通知書はおそくとも昭和四〇年九月四日には原告住所に配達されたものと推認される。
ところで、右処分の通知書が原告の住所に配達されたときには、原告がその通知書に記載された前記処分の存在及び内容を了知することのできる状態におかれたものというべきであるから、たとえ原告がなんらかの事情でその処分の存在及び内容を知らなかつたり、あるいは知ることがおくれたとしても、国税通則法第七六条第一項にいう処分に係る通知を受けたものと解するを相当とする。そうすると、原告は昭和四〇年九月四日に前記処分の通知を受けたものといわなければならない。
然るに、右処分に対する異議申立は、原告から被告広島西税務署長宛に、法定期間経過後である昭和四〇年一〇月二九日発信、翌三〇日到着の普通郵便でなされたことは<証拠省略>により明らかである。従つて、右異議申立は、法定期間経過後になされたものゆえ不適法というほかはない。
そうすると、原告の所得税更正加算税賦課決定処分の取り消を求める本訴請求は、適法な不服申立を経ていないから、その余の点について判断を進めるまでもなく、不適法として却下を免がれない。
二、次に、被告広島西税務署長のした異議申立却下決定及び被告広島国税局長のした審査請求却下裁決の取消を求める訴について。
原告が本件所得税更正加算税賦課決定の処分に対する異議申立をしたのは法定の異議申立期間経過後であることは前記認定のとおりである。従つて、右処分は、原告が法定の異議申立期間内に異議申立をしなかつたことにより、不服申立の方法がなくなつたから、このときに確定したものといわなければならない。
そうすると、原処分が確定している以上、原告にはこれが取消を求める方法としての異議申立及び審査請求の権限がないことはいうまでもなく、本件異議申立却下決定及び本件審査請求却下裁決のみを取り消す法律上の利益を原告は有しないものと解すべきである。それゆえ、これらの取消を求める訴はその余の点について判断するまでもなく不適法として却下を免がれない。
三、よつて、本件各訴は、いずれも不適法として却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 熊佐義里 菅納一郎 角田進)